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過去に執筆した原稿の中から ~アメリカンモータースポーツシーン 99年4月号~

今年ツインリンクもてぎで行われるNASCARジャパンがウィンストンカップではなくウィンストンウエストになったことで少なからぬ影響が出ていると聞いた。

有名ドライバーの来日が期待できないからイベントの格が下がったとか、集客に多くを期待できないから支援や後援が取りにくいとか。

でも、何度も言うようだが「まずウィンストンウエストを成功させることだ」。日本のレース界はそろそろ等身大のイベントをきっちり育てる覚悟を決めないと、我々の子供がモータースポーツを楽しめなくなる環境が訪れるのを防げなくなる。NASCARストックカーも一朝一夕にしてビッグタイムスポーツになったわけではない。

ストックカーレースとメジャースポーツ

アメリカのモータースポーツは大きく4つに大別される。

100年あまり前の自動車産業創成期から、綿々とアメリカの自動車レースの伝統を担うオープンホイールレーシング。

公道でのストリートファイトが転じ、今やアメリカで最も多くのイベントを開催するまでになったドラッグレース。

自動車レースのルーツでもある公道を利用した競走から派生したロードコースレース。

そして、大戦前まで一部の人たちのものだったモータースポーツを、大衆的な娯楽として確立したストックカーレースの4つだ。

どのカテゴリーもトップクラスになると、他のメジャースポーツに伍してイベントが実況中継されるのはもちろん、各カテゴリーを扱った専門のニュース番組が制作されているほど、市場の支持率は高い。

その中でも、今最も脚光を浴びているのがストックカーレーシング。参加者の数から見ると、現在のアメリカでもっとも大きなピラミッドを形成するモータースポーツに成長した。

その頂点に立つのがNASCARウィンストンカップ。ここ数年は年間34戦開催されるウィンストンカップレースの入場券がレース開催日のはるか前に完売になるほどで、今やアメリカのメジャースポーツになくてはならない存在にまでに発展した。

一般にボールゲームズと呼ばれる他のメジャースポーツは、競い合うのが選手自身。車両を走らせる準備のために多くの時間を割かなければならない自動車レースはイベントの開催数では不利になる。

しかし、アメリカのスポーツブームが堅調に続いている中で、3桁の伸びを見せるNASCARウィンストンカップシリーズは、メディアはもちろんのこと、スポンサーからも消費者からも注目されている。いささか数字が古いが、表の数字は10年間に各メジャースポーツの観客動員数が増えた割合を示したもの。ボールゲームズの伸びが鈍化している中、NASCARウィンストンカップが躍進しているのが一目瞭然。既に普遍的な存在になっっているボールゲームズに加えて、市場が新しい刺激的なスポーツに注目している証拠だ。

50周年を迎えたNASCARストックカー

1940年代後半。大戦後のアメリカでは、それまでのボールゲームズに代わる新しいスポーツが大衆の興味を引き始める。それが一般に売られている市販車で争うストックカーレーシングだ。

1900年代初頭からの約50年は、ナショナルチャンピオンシップを決めるチャンプカーを頂点とし、スプリントカー、ミヂェットと続く純レーシングマシンによるレースが主流だった。参加するのは技術に精通した一部の人たちで、一般大衆にとってレースは見るスポーツでしかなかった。

ところが自動車の普及に伴い車を道具にした競技が人々の注目を集めるようになる。特に、誰でもが買える市販車を使うストックカーレースが始まると、誰でもが手軽に参加できる自動車レースとしてストックカーのルーツであるミッドイーストから全米各地へと拡大する。

しかし一方では、地方ごとの独自のルールで行われるため、またプロモーター間の交流もなかったため、当時既に全米を転戦していたチャンプカーレースと比較すると、その時点ではアウトロー的な、ストックカーレースはローカルなモータースポーツにすぎなかった。

自身がレーシングドライバーとしてストックカーレースに参加し、あるいはストックカーレースをプロモートしていたウィリアム・フランスが、統一規則によるストックカーレースの開催とその発展を目的に各地のプロモーターが一堂に会する機会を設けた。時は1947年も押しつまった12月14日。場所はフロリダ州デイトナビーチのストリームラインホテル。ここでの数日間にわたる会議こそ、メジャースポーツに肩をならべるまでに発展したアメリカンストックカーレースの起源となる。

以後、アメリカンストックカーレーシングを統括することになるNASCAR、National Association for Stock Car Auto Racingが正式に設立されるのは翌1948年2月21日だが、それに先立つ2月15日にはデイトナビーチの砂浜と公道を用いた1周3.5KmのコースでNASCARとして主催する初のストックカーレースが開催される。優勝したのは39年型フォードに乗るレッド・バイロン。

翌1949年にはストックカーレースを将来的に定義つける "ストリクトリーストック 規則" − 安全装備を施す以外は無改造の市販車−によるグランドナショナルデビジョンが制定され、6月19日にノースカロライナ州シャーロットのフェアグラウンドのダートオーバルで初のレースが開催される。優勝したのは49年型リンカーンを駆るジム・ローパーで、賞金総額5,000ドルのうちの2,000ドルを手中にした。

もともとアメリカの南東部で始まったストックカーレースだが、1954年には西海岸の10レースが加わる。
発展と拡大を続けるNASCARストックカーレーシングに呼応するように各地で舗装のスピードウエイの建設が相次ぐ。1959年、デイトナインターナショナルスピードウエイ。翌1960年、アトランタインターナショナルスピードウエイとシャーロットモータースピードウエイ。

一方、長年親しまれてきたいわゆるビーチレースは、1958年のデイトナビーチをもって終焉を迎える。ストックカーレースがスポーツとしての地位を固めるのと平行して、観客にとって快適に見られる環境を用意し、エンターテイメント性を高めようとしたNASCARの判断からだ。

ストックカーレースの人気が高まるのと同時に自動車メーカーの参入も相次ぎ、1955年にはフォード、シェビー、ダッヂ、オールズモビル、ハドソン、ビュイック、クライスラーの7社が覇を競った。レースの開催数も上昇を続け、64年にはウィンストンカップの前身であるグランドナショナルデビジョンだけで年間62戦のシリーズ戦が行われた。

その後、NASCARストックカーはウィンストンカップを頂点とするナショナルシリーズをプロスポーツとして確立させ、ショートトラックで開催されるウィークエンドシリーズを入門レース兼プロドライバー発掘の場として充実させ、あらゆる市場と消費者層を吸収しながら発展を続ける。

NASCARストックカーの世界

アメリカのストックカーレーシングといえばNASCARが代名詞だが、NASCARだけが統括団体ではない。南西部を中心に根強い人気を誇るARCA、北部からカナダにかけてショートトラックを中心としたレースシリーズを展開するASA、改造範囲の広いストックカーシリーズを売り物にするIMCA。どの統括団体も複数のカテゴリーを用意しているから、アメリカではNASCAR以外のストックカーレースを目にする機会が非常に多い。

総本山のNASCARといえば、いまだに統括する各シリーズの拡充中で、その公認レースの数と開催地の数は世界一を誇る。NASCARの各カテゴリーとシリーズの概略を説明すると以下のようになる。

まず頂点に全米を転戦するナショナルシリーズが3つある。過去3年日本でエキジビジョンレースが行われたウィンストンカップシリーズが最上位に位置し、同一形式の車両を使いながらウィンストンカップよりは短いレース距離で争われるグランドナショナルシリーズがその下に、自動車レースとしては珍しくピックアップトラックで争われるトラックシリーズがそれに続く。それぞれ年間に34、32、24戦で争われるから、全米を転戦するシリーズだけで90レースの多くを数える。

次に5つから8つの州のレース場を転戦して行われる広域レースシリーズが9つ用意されている。中にはウィンストンカップと同一車両を使ったウィンストンウエストシリーズやグランドナショナルと同一車両を用いるノースシリーズがあり、ナショナルシリーズへの登竜門としての性格を兼ね備える。

また現在のNASCARストックカーで唯一日本車が参加している4気筒エンジンを搭載したダッシュシリーズも広域シリーズのひとつだ。

それぞれのシリーズが11〜23戦で争われ、合計155レースが開催される。毎年ナショナルシリーズの3人に広域シリーズの9人を加えた12人が、NASCARチャンピオンとしての名誉を称えられる。

NASCARが直接公認するレースは他にもある。ナショナルシリーズがプロドライバーを、広域シリーズがセミプロを対象にしているのに対し、アマチュアを対象としたシリーズだ。ウィンストンレーシングシリーズと呼ばれるそれは、ストックカーレースの頂点を目指すドライバーが、全米93のNASCAR公認レース場で開催されるレースの中から地元に近いシリーズに登録し、年間を通じてそのシリーズを戦う。各々のレース場は4〜8クラスのレースを用意しているから、ドライバーは自分の懐にあったカテゴリーに参加できる。それぞれのシリーズには年間18〜28レースが組まれているから、トレーニンググラウンドとしても申し分ない。ちなみにNASCARがウィンストンレーシングシリーズで公認するレースシリーズの数は396。従って、公認するレース数となるとゆうに8,000レースを超える。

ただしウィンストンレーシングシリーズではチャンピオンを決めるポイントの加算がレースの勝率と比例せず、参加台数やその地域の競争の激しさを元にした係数を乗じ、最終的に1人のナショナルチャンピオンを決める。従って、全戦に参加できなくても競争の激しいシリーズで勝ち抜くか、抜群の勝率を上げればチャンピオンの可能性がある。まさにアマチュアがストックカーレースの醍醐味を経験する場であると同時に、将来の広域シリーズ、あるいはナショナルシリーズのスタードライバーを生み、また上位カテゴリーのチームオーナーにアマチュアドライバーが実力をアピールする場でもある。なにしろチャンピオンともなれば、NASCARウィンストンカップを目標に戦う1万人以上のストックカードライバーの頂点に立つわけだから。

ストックカーレーシングの優位性

NASCARに限らずストックカーレーシングが、アメリカで広く一般に受け入れられる理由はふたつ。

ひとつは見る者にとっていつも接戦が繰り広げられるストックカーレースは、車を道具にしているもののまさに人間対人間が争うスポーツだという点。誰が勝ってもおかしくはない状況から勝者が生まれるのだから、走るドライバーも真剣なら見る側も息をつく暇がない。

逆説的に言えば、最終的な勝者が僅差で決まらないようなスポーツは、それがボールゲームズであろうとアメリカではメジャーになれない。ストックカーレーシングには、外観の派手さ以上に競り合いに満ちた競争だから人気がある。

もうひとつ。メジャースポーツはどれも底辺が広い。ボールゲームズは言うに及ばず、サーフィンやビーチバレー、スノーボードを例に出すまでもなく、アメリカではプロイベントで繰り広げられる妙技を羨望の目で見つめプロを称える一般の人たちが、実は自ら参加者である例が多い。

ストックカーレースに参加する場合、他のレースに比べて安価な車両製作費は大きな魅力だ。たとえばNASCARウィンストンカップのトップレベルの車両を購入する場合、現在の為替レートで1500万円あれば完成車を手にすることができる。本格的なフォーミュラカーを買う何分の一の費用で世界有数のカップカーが買える現実がある。アマチュアレベルのショートトラックレースに出るならば、レースの種類にもよるが、邦貨で200万円あればシリーズ優勝をねらえる車両を作り上げることができる。

アメリカを発祥の地とするオーバルレーシングは、もともと競馬場の周回路をコースに使ったことが始まり。このオーバルコース、ヨーロッパ系のモータースポーツが定着している日本ではなじみが薄いが、1320ヶ所あるレーシングコースのうちの78%がオーバルというほど、アメリカでは当たり前の競技形態だ。
オーバルレーシングの利点もふたつある。

見る側にとってはレースの進行をすべて見渡すことができるから、レースをより身近なものに感じられる。レース場で起きるあらゆることの生き証人になれる可能性があるということは、メジャースポーツが備えなければならない条件のひとつだ。

特にショートトラックと呼ばれる1周800mのオーバルとラックで開催されるNASCARウィンストンカップレースは圧巻。43台が轟音を響かせながらターンに突っ込んでいく様は他のモータースポーツでは見られないスペクタクルだ。1周4.28Kmのタラデガスーパースピードウエイではカップカーの直線でのスピードは時速370Kmに達する。重さ1.6トンもある重量級のカップカーが空気を切り裂いて突進する様は身震いするほどだ。

参加する側にとってもオーバルコースから受ける恩恵は計り知れない。もともとオーバルコースはレイアウトが単純なだけに、ロードレースに比べると速さにつながる要素が少ない。換言すれば、加速、コーナリング、減速の3要素のどれもが高次元でバランスしていないと速く走ることはできない。

ロードコースに見られるような特定の部分が速いから有利だという理論は通用しない。すなわち、オーバルコースを速く走るには他人よりすぐれた性能の車両を手に入れることも必要ではあるが、それだけがすべてではない。そのオーバルコースに合ったセッティングを見つけそれを施すことで速く走ることができる。

つまり、突出したエンジン性能の車両を持ち込んでも、ターンを高速で曲がるセッティングが選られなければ遅い。セッティングはあくまでもドライバーとエンジニアの人間同士が行う作業であって、研究室で開発された車両がいかに優秀でもそれだけで勝てる保証はない。要するに資金力の大きさがそのまま速さに比例しないところが参加者にとってはオーバルレーシングの魅力のひとつなのだ。

一般社会で自動車が特殊なものでなくなってから久しい。もはや一部の人たちのものだけでもなければ、単に自動車を所有するだけでは満たされない環境にある。

車を核にして考えた場合、見る側にも参加する側にも魅力あるエンターテイメントを創造するなら、オーバルコースを使ったストックカーレーシングしかないではないか、というのがNASCARをはじめとする統括団体の結論だ。

NASCARウィンストンカップ概論

1,500万円で買える本格的なレーシングカー。そんな車両で今年のデイトナ500マイルレースに優勝したデール・アーンハートは1億4千万円の賞金を獲得した。カップカーは世界一費用対効果の高いレース車両といえる。

そのカップカー。今年はシボレーモンテカルロ、ポンティアックグランプリ、フォードトーラスが参戦しているが、そのどれもが生産車に外観は似ているものの、中身はまったくの別物。レースのために白紙から作られた専用車両だ。

車両の骨格となるシャーシは鋼管を溶接して組み上げたスペースフレーム。エンジンは最高速を稼ぐために特別にチューニングされ、トランスミッションはトラックのレイアウトに適応させるためすべてのギア比が交換できる4速マニュアル。タイヤはピットインごとに交換するからホイールは消耗品と割り切られ安価なスティール製。350Km/hの最高速がでるスーパースピードウエイではバーストが原因でクラッシュするのを防ぐために二重構造のタイヤの使用が義務づけられている。そして、車両規則の中で最もNASCARらしさがあらわれているのが、チタンやカーボンファイバーなどの高価な材質の使用禁止と、誰にでも買える部品以外の使用を禁止するいう項目だ。いうまでもなく、車両製作費の高騰を押さえ、より多くの人を同じ条件でレースに参加させることが目的なのは言うまでもない。

逆にチームごとの車両保有台数には制限がない。NASCARウィンストンカップシリーズは大きく分けてスーパースピードウエイと呼ばれる1周2.4Km以上のオーバルと、1.6Kmを中心とするインターミデイトオーバル、1Km以下のショートオーバル、そしてロードコースの4種類のレース場を転戦する。

初期にはスペアカーもなくレース場まで乗っていった車でレースを走ったとあるが、近年になってスペアカーはもちろん、レース場の形態にあわせた数種類の車両を複数保有することが主流になっている。内訳はチームによって異なるが、有力チームの場合、シーズンに用意する車両は12台を数えるという。車両価格が他のメジャーモータースポーツに比べてかなり安いのと鋼管スペースフレームに外皮をかぶせた車両の耐用年数が極めて長いことが、レースコースに合わせた仕様の車両を複数用意できる理由だ。

従って、 レース車両自体は現代の水準からするとローテクで他のトップカテゴリーに比べると安価ではあるが、ドライバーひとり当たりに10台余りの車両を用意し、かつ年間34レースを消化するためにそのメンテナンスのローテーションを組むわけで、NASCARウィンストンカップのレースオペレーションの規模は想像以上に大きい。そのオペレーションが車両製作費から人件費、施設費や移動費などの経費を含んでも年間1,300万ドル(約17億円)でまかなえるというのだから、 その市場での露出を考えればチームオーナーにとっては費用対効果が高く、スポンサーにとっては費用対露出効果の高いスポーツといえる。

実際、アメリカの主要企業のほとんどが直接・間接にNASCARウィンストンカップをスポンサーしているし、ウィンストンカップチームのスポンサー候補は後を絶たないといわれる。しかし参加台数がここ数年増えてないのは、現在のウィンストンカップレースの競争レベルに対応できるエンジニアやメカニックの人材が不足しているからだ。つまり、資金的には十分でも人的資材が十分でなければNASCARウィンストンカップに出場しても好成績は望めない。純粋なビジネスの観点からウィンストンカップへの参加を見合わせているチームも多い。

4種類のレースコースを使い年間34戦行われるNASCARウィンストンカップは、売り手市場であるストックカー業界の中にあっても群を抜くプロフェッショナルな集団だ。だからウィンストンカップチャンピオンに輝いたチームのチーフメカニックが年報30万ドルという破格の待遇を受けることができる。

NASCARが作り上げた巨大なピラミッドを俯瞰すれば、ダートトラックのウイークエンドレースに参加しているドライバーも、メカニックも、チームオーナーも、誰もが頂点に位置するNASCARウィンストンカップを目に見える目標としてかかげることができる。観客も1周600mのショートトラックの向こうに、巨大なデイトナスーパースピードウエイを創造することができる。ちょうど、公園のバスケットボードに向かって練習を続け、明日のNBAスターを夢見る少年のように、だ。

なんら他のメジャースポーツと変らない構図が既に完成しているのがアメリカンストックカーレーシングだ。

NASCARが極東の国でレースを開催するのは、彼らの覇権のためでもある。一方のツインリンクもてぎはイベントを主催することで収益を上げることを目標にしている。両者の思惑は同じようで全く異なる。要は、いかにお互いの求めるものを市場に理解してもらうかが課題だ。 (了)