Home > YRS Media >

コーナーの向こうに WIR (5) - YRS Mail Magazine No.74より再掲載 -

ウイロースプリングスレースウエイ ( 第5話 )

すぐに思いつくだけで4つのサーキットにこの「縦のブラインドコーナー」がある。ここWIRと、リバーサイドレースウエイ、ラグナセカ、それとシアーズポイントレースウエイだ。
#好きだったリバーサイドレースウエイは閉鎖されてしまったが。

日本で走っている人には想像ができない、だろう。ブラインドコーナーと言っても「コーナーを抜けていくにつれて先が見えてくる」のでは、決してない。コーナーにアプローチする時にドライバー目線では、「コースが途切れている」ように見えるコーナーだ。

友人操るセスナに乗せてもらった時、雲の中を飛ぶのはホントに不安だった。そんな感じと同じ。視界が開けた時、思わず身体全体に力が入っていたことに気づく。
#アメリカではレンタカーと同じぐらいの値段でセスナが借りられる。小さい飛行機は好きではないが、天気のいい日にのるのは最高。

まぁ2、3周走ればコーナーの先がどうなっていてどのラインを通ればスムースに抜けられるかがわかる。しかしわかったと言っても、毎周「その先に何が起きているか」はわからない。コーナーポストはあるが、そこから出される警告旗も絶対ではない。

なによりも、先が見えないことに対して本能的な不安を覚える。
#それを克服するには「理にかなった裏付け」が必用だ。蛮勇や向こう見ずな気分では解決しない。

で、5コーナーを失速させずに2速7000回転ほどで立ち上がると、「コブ」までの車速がグ〜ンッと乗る。が、このあたりが難しい。

「このラップは・・・、ヘヘヘ」なんて調子に乗って3速にアップ。ついついスロットルを床まで踏んでしまうと、荷重が抜けた瞬間恐い思いをしなければならない。

走っているうちに、常識あるドライバーなら(ボクもそうだが)自然と危険な状況を作り「だしそう」な運転は避けるものだ。だから、いつもは問題ない。「オッ、来たな!」てな感じで抜けた荷重が戻る前にステアリングを戻し、何事もなかったかのように6コーナーを抜けられる。

ところが、「我」が出てくると、これはもういけない。「我」を「欲」や「意識」置き換えてもいい。

こうしたい、と頭が考えた瞬間に身体は固まり「イメージ」と「操作」の間にギャップが生まれる。

当時乗っていたKP61はFRだったが運動性能がいいのが特長。フルカウンターを当てるような場面になっても慌てる必要はないのだが、「速く走ろうと」思っている頭と「失速したな!」という事実がせめぎ合いリズムを崩す。ひとつリズムが崩れれば、その全体が回復するまでに時間がかかる。サーキット走行では安全面からもタイム的にも致命傷だ。
#「うまいドライバーは実力の100%では走っていません。だから速く走れるのです。」とボクが言うのは、自分もイヤというほど経験した鉄則だからだ。

で、いきおい6コーナーへの進入は「敢えて全開にはしない」。もちろん、当時一緒に走っていたアメリカ人の中でもテンパーな人達は「踏みっぱなし」で行って「派手な走り」を楽しんでいたが、そんな「刹那的な快楽!」よりも結果を重んじる(?)ボクは、その都度丁寧に右足に力を入れた。

それはこういうことだ。

できるだけ直線的に5コーナー立ち上がる。横Gがわずかになってきた頃、うまくすると3速にアップ。6コーナーの進入はのぼりだからノーブレーキ。3速全開。

が、床まで踏んでいた右足を、「右にターンインする」のと反比例するように「戻す」。どれくらい戻すかと言うと、クルマが加速も減速もしない状態になるまでだ。

前後のGが均衡したクルマは左右のGに対して寛大になる。あとはエレベーターで3階から1階についた時に似た感じがする寸前までスロットルポジションをキープする。

出口から下りになる6コーナーを抜けると、最終コーナーまで延々と続く高速コーナーが視野に入る。その時、軽くなっていた身体に重さが戻る。後輪がグリップを回復する。瞬間、右足を床が抜けんとばかりに踏み込む。

そして冷静に、「着地した」位置がアウトまではらんでなければ、ステアリングを修正してできるだけ早く右のGを消そうと努力する。そこそこアウトよりのラインに出ているなら、瓦礫で下っているエスケープゾーンに出ないようにラインを維持する。

そう。6コーナーをどこから抜けるかが問題ではない。6コーナー立ち上がりを基点とした「中間加速の初速」が大切なのだ。

第6話に続く