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コーナーの向こうに WIR (3) - YRS Mail Magazine No.71より再掲載 -

ウイロースプリングスレースウエイ ( 第3話 )

「同じようなもんヨ」とクルーチーフ兼我が家の大蔵省。

もちろん、そんなに簡単にタイムが縮まるとは思っていない。が、しかし、方向性は見えてきた。不用意な操作でコーナーの「通加速度」と「脱出速度」を殺がないように、クルマのバランスに注意することだ。

予選では「直線を速く走るための準備にコーナリングを使う」ことを徹底して走ろうと決意。

考えてみれば、WIRでハードブレーキングが必要なのは4速から2速に落とす3コーナー、下り切ったところにある5コーナーの2つ。

速度を落とす必要があっても1コーナー、2コーナー、最終コーナーは高速コーナー。ブレーキングを減速に使うより、コーナーの通加速度を決める手段に利用した方が有効だ。

ラップタイムは1周の平均速度と正確に比例するから、特に高速コースのWIRなどではコーナーで頑張るより直線での速度を稼ぐことが大切だ。

昔取材したことのある名レースエンジニアが言った「速く走るクルマを創るのには、単位時間あたりの移動距離が大きい直線と高速コーナーで速く走らせることを念頭に置く必要がある」という言葉を思い出す。

予選の2コーナー。1コーナーを抜けてからわずかな上りの続く直線。その延長にある2コーナー。180度以上向きの変わる長いコーナーの途中からは斜度が増す。

ここもスピードを殺すことのできないコーナー。

2コーナーへは4速のままでも進入できるが、トラクションが足りない分だけカントがついているにも関わらずアウトへはらもうとする。慣れるまで3速に落として入ることに決める。

ここのダウンシフトは圧巻。なにしろ4速でも行けるほど速いコーナー。3速の回転はレッドゾーンギリギリ。ヒールアンドトーでダウンシフトする際、スロットルを思いっきり開けないと回転が合わない。

コース幅が結構広いから、ラインも悩みどころ。アウトインアウトがいいのか。と言ってもコーナーが長いからどこにクリッピングポイントを置けばいいのか。あるいは全長にわたって少しでも半径を大きくするためアウト側をなめた方がいいのか。

タイヤにも負担のかかるコーナーだ。上り勾配に加えて明確なカントがついているからスロットルを開けてもアンダーステアが顔を出すことはないが、左リアタイヤがスライドする。

とにかく、コーナリング中に右前方に見える3コーナーをうかがうこともできるほど、長い時間のコーナリング。

「頼む。どうかスピードが落ちないように」
願いながら、「ベストと思われる」スロットルポジションをキープ。コーナーの後半ではできるだけ遠心力を減らせるようなステアリングワークに気を付ける。

2コーナーの立ち上がりはトリッキーだ。コーナーが終わるところで路面がフラットになる。アウトに最もはらむ地点のエッジをコーナリング中に見ることができない。安全策の意味もあるが、3コーナーまでの加速を稼ぐため2コーナー出口付近でクルマの向きをインよりに変える。

2コーナー出口から3コーナーまでの直線。3コーナーは左にうねりながら上っている2速の小さなコーナー。直線を走っていても、正面には左手の丘に消えるコースの一部しか見えない。

2コーナーの立ち上がり、エンジンが3速で悲鳴を上げる寸前4速にアップ。右手の低いところに1コーナーから2コーナーへ続く直線が見える。

ターンインのあたりから上りこう配の始まる3コーナー。最も高いところにある4コーナーまでの急な上りを駆け上がるため2速が必要だが、6000回転は回る速いコーナー。

ブレーキングで車速を落とし過ぎると失速する。慣性を残すためにも3コーナーの通加速度が重要。いろいろなことが頭を過ぎり、整理する暇も、情報の入っている引き出しを捜す暇もない。

「ろくに練習もしていないのだから・・」。当たり前だと自分を納得させる。

3コーナーは回り込んでいるくせに直後に右にベンドする。どこでGを消したらいいのか判断が難しい。左に振り過ぎると速度を殺ぐようだし、早めに右ベンドについてしまうと4コーナーをインから入らなくてはならない。

とりあえず、3コーナーに入ってからはイーブンスロットルをキープする。ステアリングワークに集中できるようにする。瞬間的なGがかからないラインを探す。

右回りの4コーナー。コースの最も高いところにある。しかし、アプローチではクリッピングポイントも、もちろん出口も見えないブラインドコーナー。

しかも、立ち上がりのアウト側は瓦礫のエスケープゾーンだが下っている。絶対に「はみ出してはならない」コーナーだ。

4コーナー。クリッピングポイントの手前から路面は下りに変わる。かなりの下り。

慎重にスロットルを開けながら立ち上がると、目前にはカリフォルニアの砂漠。左手から右手へと、7〜9コーナーまで続くコースと滑走路のような直線が目に入る。

とにかく面白い。リバーサイドも楽しいが、速く走るためには基礎問題だけでなくたくさんの応用問題を解かなければならないWIR。

第4話に続く